建築士法の第一条には「建築物の質の向上に寄与させる」とあり、建築士に何を求めているのか個人的に考えてみました。また、過去には社会的大問題が起こり、建築士に対して関心が集まった事がありました。建築士の方や建築士に関わる方などは、一緒に考えてみませんか。
建築士法(昭和25年法律第202号)と建築基準法(昭和25年法律第201号)は姉妹法となっています。これら法律の目的や制定、変化の背景を改めて勉強する事で今後に活かしたいと思いました。
建築士法の現行法令(一部)
(目的)第一条 この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させることを目的とする。
第1条は制定から1度も法改正は行われていません。同時期に制定した建築基準法や建設業法の第1条も現在までに法改正はありません。
(職責)第二条の二 建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。
この条文は建築士への信用が失墜した耐震偽装問題をきっかけに行われた平成18年の法改正で旧18条1項にあったものが、2条の2となりました。
建築士は「常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通」とあります。本音を言えば、建築基準法をはじめ、業務に関する法令も実務も多岐にわたります。法改正も頻繁に起こるので、常に精通しているかと問われれば自信はありません。しかし、その後の「公正かつ誠実に」とあるように、精通している事と精通していない事をしっかりと認識し、相手が誰であっても正直に伝え、誠実に接して行動できるようにしたいと思います。
(設計及び工事監理)第十八条 建築士は、設計を行う場合においては、設計に係る建築物が法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない。
第18条1項は上記の改正と同時に元は第18条2項だったものが改正されました。建築基準法では建築確認の際に建築主事または指定確認検査機関などが確認していますが、全ての建築物で全ての条文の適合確認をしているわけではありません。例えば4号特例制度によって建築士による設計がされている建築物の場合、一部の確認が省略されています。建築士法のこの条文が機能していることで、手続きの合理化が出来ていると感じますが、建築士自身のセルフチェックが非常に大切であると思っています。
2 建築士は、設計を行う場合においては、設計の委託者に対し、設計の内容に関して適切な説明を行うように努めなければならない。
この第18条2項は平成18年の法改正によって新設されました。18条1項で法令や条例に適合する事が求められ、この条文で依頼主である委託者(建築主)に適切な説明を行うよう努めるとあります。努力義務ではありますが、お互いの考えを確認するために、説明と質疑応答を行う事が重要であると思います。
第二十一条の三 建築士は、建築基準法の定める建築物に関する基準に適合しない建築物の建築その他のこの法律若しくは建築物の建築に関する他の法律又はこれらに基づく命令若しくは条例の規定に違反する行為について指示をし、相談に応じ、その他これらに類する行為をしてはならない。
この条文も平成18年の法改正によって新設されました。当たり前のような内容ですが、耐震偽装問題の原因に深く関わるため、出来たのだろうと思います。今は冷静になって個人的意見を述べていますが、関係者との立場の違いや置かれた状況によっては、私も自分事として捉えた時に正しい選択ができるかと考えるようになりました。
第二十二条 建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない。
この条文は制定時はありませんでしたが、昭和58年の法改正によって新設されました。この時に木造建築士が創設されたり、2025年4月に改正施行される予定のいわゆる4号特例も規定されました。
建築士は「設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上」とあります。日々の業務をするだけでは維持くらいしか出来ないので、向上するにはどうしたらいいかを常に意識しながら行動する事を心掛けたいと思っています。
私が特に意識したい条文とその感想は以上ですが、建築士の方、建築士を目指している方、建築士に依頼する方がどのような考えを持っているか非常に気になります。
昭和25年の制定
この法律は当時、参議院議員だった田中角栄元総理大臣が議員立法で制定された経緯がありました。
趣旨説明の発言を私なりに解釈すると、建築物の質の向上のためには設計、工事監理と施工が重要であるが、これまではそれぞれを適正に規定する法令がなく、粗雑な仕事をする者がいたため、設計と工事監理に関しては建築士法、施工に関しては建設業法をそれぞれ制定した。
その他に気になる発言として
第18条1項(旧第18条2項)に関して「建築士は法令に適合した設計をせねばなりません。この規定があるために、建築士の設計した建築物に対しましては、特に許可手続を簡易にすることができるわけであります。」と参議院の建設委員会で発言しています。
以前の市街地建築物法が許可制だったものが、建築基準法の確認制になった経緯の繋がりを感じました。ゆくゆくは4号特例のような制度になっていくのかと思います。現在は当時と比較して法令の基準が高度化、複雑化していて、建築士に求めている適合責任はより重要になっています。上記でも述べましたが、手続きが簡易となっていれば一層、建築士が法令適合しているかのセルフチェックは非常に大切だと感じました。
平成18年の法改正
法律が昭和25年に制定されましたが、耐震偽装問題をきっかけに、建築士法だけでなく、建築基準法も大きく改正が行われました。
当時の国会の議事録を読んでいると、現在の滋賀県知事である三日月大造元衆議院議員が発言されており、滋賀県民として勝手に親近感がわきました。
- 建築主や建築士などの建てる側の問題
- 特定行政庁や指定確認検査機関などの行政の問題
耐震偽装問題はこの両方の問題が起きて大きくなったものです。
建てる側の問題としては、建築主の要求やコスト削減などで契約関係上における弱い立場の建築士が法令遵守義務より、建築主の要求に応える設計を優先し、安全意識が欠如した。
許される問題ではありませんが、自分が同じ状況になった場合でどのような行動をしていただろうと考えてしまいます。平成18年以降も横浜市で起こった杭工事のデータ偽装をはじめ、社会問題になったケースはいくつもあります。法律やルールが変わっても建築士の他に建築主、施工関係者などが互いに連携しなければ意味がありません。計画通りに進むことが理想ではありますが、計画が止まったり戻ったりした際も責任や解決策を正直に話し合える関係性を日頃から構築できるかが一番重要なのだろうと思います。
行政の問題としては、最低限の法令基準の適合確認する立場でありながら、確認できていなかった事で問題のある建物の着工および竣工を防げなかった。
これまでは、確認の審査方法の指針は特にありませんでした。建築主事や確認検査員などの資格者が一般的に持っている知識で法令適合の確認が出来ると考えられていたからです。国からの通知や一部のマニュアルはありましたが不十分な点もあったため、確認審査の他に中間検査、完了検査も指針が出来ました。私はこの指針が出来た後に資格を取得して実際の実務を経験しましたが、建築確認については別の機会に記事作成したいと思います。
また、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士や構造計算適合性判定機関の制度も大きな改正点だと思います。
今回の記事作成にあたり、過去の国会での本会議(衆議院、参議院)、委員会議事録および現行法令を主に参考にしました。出典元は以下になります。
出典:国立国会図書館ウェブサイト(https://www.ndl.go.jp/)
出典:e-Gov ポータル(https://www.e-gov.go.jp/)
まとめ
この法律は「建築物の質の向上に寄与させる」ことが目的とあります。「建築物の質」については、建築士によっても異なるでしょうし場所、時代、環境なども影響するでしょう。法令基準に加えて実際に居住したり、使用したりするその人にとっての「建築物の質」が何かを意識した上でより良くする為に知識や経験を活用したいと個人的に考えました。その為には自身のスキルアップも重要ですが、自身以外の事をどれだけ考えられるかのほうが大切だと思います。ただし、社会の変化や人間の気持ちの変化などは当然にあるため、今ある建築物も変化する事を前提に、定期的に自問しながら、自分の考えを更新、修正をしたいと思います。